極限乾燥耐性生物ネムリユスリカのゲノム概要配列の解読

タイトル 極限乾燥耐性生物ネムリユスリカのゲノム概要配列の解読
担当機関 (独)農業生物資源研究所
研究期間 2010~2014
研究担当者 黄川田隆洋
Oleg Gusev
末次克行
Cornette Richard
畑中理恵
菊田真吾
志村幸子
金森裕之
片寄裕一
松本隆
奥田隆
発行年度 2014
要約 極限的な乾燥耐性能力を持つネムリユスリカのゲノム塩基配列を解読し、その概要配列を明らかにした。これにより、極限乾燥耐性をもたらす遺伝子多重化領域と乾燥時特有の遺伝子発現調節機構の存在を発見するとともに、極限乾燥耐性獲得の進化の過程が明らかになった。
キーワード 極限乾燥耐性、ゲノム、遺伝子の水平伝播、適応進化、遺伝子の多重化
背景・ねらい  生物にとって、水は代謝を動かす溶媒として必須である。細胞から水分が失われると代謝は停止し、最終的には死に至る。しかし、一部の生物は、完全に乾燥して代謝が停止しても死に至ることなく、再給水すると代謝が復活する。この現象は乾燥無代謝休眠と呼ばれ、昆虫ではアフリカ半乾燥地帯に生息するネムリユスリカの幼虫のみに認められる。これまでに、細胞保護因子であるトレハロースやLEA(レア)タンパク質が乾燥無代謝休眠状態の維持に関与していることを明らかにしたが、その他の因子が関与している可能性も十分にある。そこで、乾燥無代謝休眠に関与する遺伝子の網羅的同定とその分子進化の解明を目指し、乾燥耐性能力が大きく異なる同属異種の2種類のユスリカのゲノム塩基配列を解読し、比較した(図1)。
成果の内容・特徴
  1. 生物研が中心となり、カザン大学(ロシア)、沖縄科学技術大学院大学、基礎生物学研究所、金沢大学、モスクワ大学(ロシア)、ロシア物理化学医学研究所、ヴァンダービルト大学(米国)と共同して、極限的な乾燥耐性を示す生物であるネムリユスリカのゲノム塩基配列の解読を行った。その結果、ネムリユスリカのゲノム上には、およそ17,000個の遺伝子が存在することが明らかになった。
  2. 解読したネムリユスリカのゲノムを、ネムリユスリカの近縁種で乾燥耐性が全く無いヤモンユスリカのゲノム塩基配列と比較した結果、ネムリユスリカのゲノムに遺伝子が多重化した領域(ARId、アリッド)を発見した(図2)。ARIdはネムリユスリカゲノムに特有の構造で、新規な抗酸化因子や老化タンパク質修復酵素、ストレスタンパク質の一種であるLEAタンパク質など、生体分子保護機能をもつ遺伝子が多重化して存在していた。
  3. 分子時計を用いた系統解析を行った結果、約2,500万年前に他のユスリカから分岐したネムリユスリカが、乾燥無代謝休眠を実現した進化の過程がわかった(図3)。また、乾燥耐性に必須な遺伝子の一つであるLEAタンパク質遺伝子は、相同性検索の結果、細菌からの水平伝播によってネムリユスリカが獲得したことが示された。
成果の活用面・留意点
  1. 本研究結果から判明したネムリユスリカ特有な乾燥無代謝休眠に関連した遺伝子群を任意の細胞で発現させることにより、iPS細胞や受精卵、血液などの常温乾燥保存法の開発の促進が期待される。
  2. 現在、遺伝子を細胞に発現させるためには、薬剤処理や温度刺激を与える方法が主流となっている。今後、ネムリユスリカ特有の乾燥誘導性の遺伝子発現制御系の解析を進めることにより、乾燥刺激のみで任意の細胞に自由自在に遺伝子を発現させることのできる画期的なシステムを構築できると期待される。
図表1 236882-1.jpg
図表2 236882-2.jpg
図表3 236882-3.jpg
研究内容 http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h26/nias02613.html
カテゴリ 乾燥 薬剤

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